188 研究系及び研究施設の現状
佃 達 哉(助教授)
A -1)専門領域:物理化学、クラスター科学
A -2)研究課題:
a) 単分子膜保護金属クラスターの単離と構造評価 b) 有機金属クラスターの光解離・光電子分光装置の制作 c) 質量分析法を用いたナノクラスターの構造評価
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) 有機単分子膜によって保護された金属クラスターは,その諸性質のサイズ依存性を理解するためのモデル系となる だけでなく,新しい機能性物質の基本単位として大きな可能性を秘めた物質群である。特に,クラスターとしての独 自性が発揮されるサブナノメートルサイズの金属クラスター(数∼数十量体)の性質が化学組成に対してどのよう に振る舞うかを理解するためには,その調製・単離法を確立する必要がある。我々は,高い還元能を持つチオールと 金属塩の反応を利用した簡便なサブナノメートルクラスターの調製法を開発するとともに,電気泳動を用いた魔法 数クラスターの単離に成功した。また,得られた金属サブナノクラスターの光学特性を調べた。
a1) ジメルカプトこはく酸( D MS A )と塩化金酸を反応させたところ,D MS A によって保護された金 12 量体クラスター がほぼサイズ選択的に得られた。400 nmの光で励起すると630 nm付近の発光が観測された(量子収率10–6)。ストー クスシフトの大きさおよび予備的な寿命測定の結果から,これは燐光によるものであると帰属した。保護分子膜厚 を増大し溶媒を 77 K まで冷却することによって,発光量子収率は 1% 程度まで増加した。これはバルク金属に比べ て約 8 桁の増大に相当する。
a2) グルタチオン(GSH)によって保護された金クラスター(姫路工大木村啓作教授提供)を,ポリアクリルアミドゲル電 気泳動によってサイズ分離したところ,複数の明確なバンドが得られた。エレクトロスプレーイオン化質量分析法 を用いて,各成分の化学組成がA u18(S G)11,A u21(S G)12,A u25±1(S G)14±1,A u28(S G)16,A u32(S G)20,A u39(S G)23であること を明らかにした。光学吸収スペクトルから,これら一連の魔法数クラスターの電子状態は離散化されており,1–2 eV 程度のHOMO-L UMOギャップを持つことが明らかになった。さらに,組成に応じたフォトルミネッセンスが観測さ れた(量子収率10–3)。
a3)n- オクタデカンチオール単分子膜によって保護されたパラジウムクラスターの構造を高分解能透過電子顕微鏡
(HR T E M ),粉末X線回折(X R D ),X線吸収微細構造(E X A F S )解析によって調べた。HR T E M および X R D の結果,コ アは直径 3.1 nmの fcc 結晶構造を持つことが明らかになった。Pd–K 端でのEX A FS から求めたPd–Pd,Pd–S の平均配 位数から,Pdコアとチオール単分子膜の界面に Pd–S混合層が形成されていることを示した。本研究は,千葉大一國 伸之講師との共同研究である。
b) 単分子膜保護金属クラスターの電子構造に対する金属コアのサイズやチオールの化学吸着が及ぼす影響を調べる ために,気相中に孤立した金属クラスター/チオール複合体に対する光解離分光および光電子分光実験を企画した。 本年度は装置の制作を行った。装置は,レーザー蒸発部と冷却ガスセルからなる有機金属クラスター発生源,タンデ ムの質量分析装置,および磁気ボトル型光電子分光器で構成されている。現在,分子クラスターを用いて装置の動作 確認および調整を進めている。
研究系及び研究施設の現状 189 c)「ナノテクノロジー総合支援プロジェクト」の一環として,全国の大学の研究者と協力して,金属や半導体のクラス
ターの質量分析を行った。
c1) 自己組織化過程を利用して,気−液界面あるいは水素終端シリコン基板−液体界面にシリコンクラスターの単結晶 を作成した。質量分析の結果,結晶構成粒子は部分的に酸化された水素終端シリコン10量体クラスターであること が明らかになった。結晶の格子点間隔は 0.53 nmおよび 0.60 nmであり,シリコン 10 量体のサイズと矛盾しない。本 研究は姫路工大木村啓作教授との共同研究である。
B -1) 学術論文
Y. NEGISHI and T. TSUKUDA, “One-Pot Preparation of Subnanometer-Sized Gold Clusters via Reduction and Stabilization
by meso-2,3-Dimercaptosuccinic Acid,” J. Am. Chem. Soc. 125, 4046–4047 (2003).
H. MURAYAMA, N. ICHIKUNI, Y. NEGISHI, T. NAGATA and T. TSUKUDA, “EXAFS Study on Interfacial Structures
of Pd Clusters and n-Octadecanethiolate Monolayers: Formation of PdS Interlayer,” Chem. Phys. Lett. 376, 26–32 (2003). S. SATO, N. YAMAMOTO, K. NAKANISHI, H. YAO, K. KIMURA, T. NARUSHIMA, Y. NEGISHI and T. TSUKUDA,
“Self-Assembly of Si Clusters into Single Crystal Arrangements: Formation of Si10 Cluster Crystals,” Jpn. J. Appl. Phys. 42, L616–618 (2003).
T. TSUKUDA and T. NAGATA, “Gas Phase Reactions of Hydrated CO2– Anion Radical with CH3I,” J. Phys. Chem. A 107, 8476–8483 (2003).
B -3) 総説、著書
佃 達哉、茅 幸二 , 「ナノクラスター」, 化学装置(工業調査会) 3 月号 , 74–76 (2003).
佃 達哉 , 「表面修飾による金属クラスターの安定化と機能化」, 先端化学シリーズ IV 理論・計算化学,クラスター,スペー スケミストリー, 日本化学会編 , 107–111 (2003).
B -4) 招待講演
佃 達哉 , 「チオール単分子膜で保護された金属クラスターの調製と構造」, 分子研研究会 , 分子研 , 2003年 2 月 . 佃 達哉 , 「有機単分子膜で保護されたサブナノ金属クラスターの構造と安定性」, 計算科学研究センタースーパーコン ピューターワークショップ「実験家は計算科学に何を期待するか?」, 分子研 , 2003年 3 月 .
B -6) 受賞、表彰
佃 達哉 , 第 11回井上研究奨励賞 (1995).
B -7) 学会および社会的活動 学会誌編集委員
ナノ学会編集委員 (2002-2003). 日本化学会東海支部代議員 (2003- ).
190 研究系及び研究施設の現状 C ) 研究活動の課題と展望
平成15年度終盤に,一連の魔法数金クラスターの単離に成功した。16年度には,この技術的な成果を足掛かりとして,様々 な構造を持つチオールで保護したクラスターを調製し系統的に魔法数クラスターを探索する。さらに,合成量をスケールアッ プし,分子研内外の研究グループの協力を得ながら,その幾何構造・電子構造・光学特性を調べ,化学組成との相関を明ら かにしたい。また,これらの魔法数クラスターを出発物質として,モデル触媒系の構築を目指したい。